1. 夜勤を始めた理由:避けられない選択、しかし稼げる現実
「夜勤」という言葉を聞くだけで、体調不良・孤独・睡眠障害などのネガティブなイメージを思い浮かべる人も多いかもしれません。しかし私にとって、夜勤はある意味“避けられない選択肢”でした。というのも、自動車工場の期間工として働く以上、夜勤はほぼ必須。例外的に日勤専属のメーカーも存在しますが、その分給与水準が低かったり、手当がつかないなどの条件面でのデメリットが目立ちます。
実際、私が最初に働いたスバルでは、夜勤が当然のように組み込まれており、1ヶ月の中で日勤と夜勤が週替わりでやってきます。そして夜勤には「深夜手当」がつき、メーカーによって異なりますが、22時〜5時の間は法定割増が加算されます。結果的に、1ヶ月で約5万円の夜勤手当が追加されることになります。これがなかなかバカにならない金額で、夜勤があることでトータルの月収が手取り25万円〜30万円前後になることも多いです。
一方、私が次に選んだトヨタ自動織機では、夜勤がありませんでした。これは私にとって大きな魅力でした。なぜなら、夜勤のない生活は、身体的にも精神的にも格段に楽になるからです。その代わり、収入は若干下がりますが、私はその時、海外旅行のために体調を万全に保ちたいと考えていたので、日勤のみの職場を選びました。夜勤と日勤、それぞれにメリット・デメリットがありますが、当時の私は、目的に応じて勤務形態を選んでいたという感じです。
2. 夜勤の勤務内容・シフト:知られざるスケジュールのリアル
スバルでの夜勤は、他メーカーと比較して終了時間がやや早いという特徴があります。例えば、スバルの夜勤は「20:00〜5:00」など、夜の早い時間に始まって、早朝に終わるようなシフトが一般的です。これは一見ラクに思えるかもしれませんが、逆に日勤のスタート時間が早かったり、交代勤務の切り替えで睡眠リズムを崩しやすいという落とし穴もあります。
仕事内容そのものは、日勤と夜勤で基本的に変わりません。自動車工場の組み立てラインでは、同じ作業を正確に、一定のスピードでこなすことが求められます。1タクト1分前後で次の車が流れてくるため、時間内に決められた作業を終わらせる必要があります。ボルトの締め付け、ナットの取り付け、コネクターの結線など、作業自体は単純ですが、正確性とスピードが問われる現場です。
夜勤での1日のスケジュールは以下のような流れになります。
- 19:30:出社・着替え・タイムカード打刻
- 19:50:ラジオ体操・朝礼(夜だけど“朝礼”と呼びます)
- 20:00〜22:00:作業(1コマ目)
- 22:00〜22:10:小休憩
- 22:10〜0:10:作業(2コマ目)
- 0:10〜0:50:夜食(昼食的な扱い)
- 0:50〜2:50:作業(3コマ目)
- 2:50〜3:00:小休憩
- 3:00〜5:00:作業(4コマ目)
- 5:00〜5:30:掃除・片付け・退勤
食堂のメニューは日勤よりも質素で、正直あまり期待できません。人気メニューは夜になると提供されないこともあります。また、夜勤では食堂自体が閉まっている日もあり、持参弁当でしのいだことも何度かありました。
3. 夜勤による5つの変化:身体も心も確実に変わっていく
夜勤生活を通して、私の生活にはさまざまな変化が起きました。ここでは、実体験をもとに「身体的変化」「精神的変化」「人間関係」「金銭的変化」「生活リズムの変化」の5つの観点から具体的に紹介します。
【身体的変化】
まずは身体への影響です。夜勤によって起きる変化としてもっとも多く挙げられるのが「睡眠」に関する問題でしょう。私は比較的順応性が高いほうなので、夜勤中に体調を崩したことはありませんでした。しかし、夜勤から日勤への切り替え直後は常に眠気との闘いでした。金曜の夜勤が終わると、土曜日の朝に帰宅してから寝るのですが、起きたらもう土曜日の夕方で、そこから月曜朝まではすぐです。疲れが取れないまま日勤を始めなければならず、これがかなりつらかったです。
また、昼間に眠れないタイプの人にとっては夜勤自体が地獄かもしれません。工場の寮は防音がしっかりしているところもありますが、外が明るいとそれだけで眠りが浅くなりますし、同じ寮に日勤の人がいると生活音が気になって熟睡できないこともあります。
【精神的変化】
意外かもしれませんが、私は精神的な不調はほとんど感じませんでした。工場内でも「うつっぽくなった」「気分が落ち込む」といった話を耳にしたことはありません。むしろ「夜勤のほうが人が少なくて気楽」と感じている人も多かった印象です。一定の作業に集中する仕事なので、メンタル的な負担はむしろ日勤より少ないかもしれません。
【人間関係の変化】
家族や恋人と同居している人にとっては、夜勤はすれ違いの原因になります。特に子どもがいる家庭では、日中に騒がしくて眠れなかったり、休みの日に家族サービスが必要だったりと、負担が大きくなります。私の場合は独り身だったのでその点は問題ありませんでした。
また、職場でも夜勤の方が静かで、コミュニケーションは必要最低限。黙々と作業できるのが気楽でした。ただ、夜勤メンバーは日勤と異なることが多いため、人間関係が固定化されにくく、孤独を感じる人もいるかもしれません。
【金銭的変化】
これこそが夜勤最大のメリットです。深夜手当は法定で「25%以上」の割増が定められており、22時〜翌5時の労働時間に適用されます。月によって差はありますが、私の場合は毎月約5万円が夜勤手当として加算されていました。
この5万円の差は大きく、年間に換算すると60万円。ちょっとした中古車が買えるレベルです。正直なところ、体調への多少の負担と引き換えに得られる報酬としては悪くない条件だと私は思っていました。
【生活リズムの変化】
当然のことながら、昼夜逆転します。夜勤週は「午前2時就寝、昼11時起床」という生活になりがち。これが週替わりで日勤と入れ替わるため、体内時計は常に混乱状態です。特に夜勤から日勤に戻るタイミングがもっとも厄介で、「土曜の朝に退勤→昼間に無理やり起きて夜に寝て日勤に備える」といった無理矢理の調整が必要になります。
ただ、夜勤ならではのメリットもあります。例えば、役所や銀行に行きやすい点。平日昼間に自由時間があるため、市役所での手続きや病院の通院など、日勤では難しいことがスムーズにこなせます。この点は非常にありがたかったです。
4. 夜勤でつらかったエピソード:眠気・疲労・そしてリズムの破壊
夜勤は慣れればどうにかなる、とよく言われます。実際、私も最初は「どうにかなるだろう」と高を括っていました。が、いざ働き出すと、いくつかの「地味にきつい」場面に遭遇しました。
● 夜勤→日勤の切り替え地獄
これが一番きつかったです。夜勤の最終日である金曜日の勤務は、朝6時や7時に終わります。そこから家に帰り、シャワーを浴びて、寝る。しかし昼頃に起きてしまう。夜には眠くならない。結果、日曜の夜も眠れず、月曜の朝は完全に寝不足で出勤。この「切り替え地獄」は、毎週やってきます。
一度、土曜の朝に帰宅してすぐに寝ず、無理に起き続けて夜に就寝し、体内時計を「リセット」しようと試みたことがあります。しかし、寝不足+生活リズムの強制変更により、翌日には頭痛と吐き気がひどく、結局それ以来やらなくなりました。
● 食欲と体調の不一致
夜勤中は、深夜に食事を取ることになります。食堂は営業していますが、メニューは明らかに「残り物」か「手抜き」。揚げ物ばかりの日もありました。夜中に脂っこいものを食べると胃が重くなり、翌朝には胸焼けがすることも。
また、体内時計が狂うことでホルモンバランスも影響を受けたのか、日勤の週に異常に空腹感を感じたり、逆に全く食欲が湧かなかったりしました。
● 睡眠トラブルと熱中症の危険
夏場の夜勤もなかなかの敵です。夜に働いて昼に寝るとなると、当然部屋は暑い時間帯に直撃します。エアコンをかけっぱなしにしても眠りは浅く、汗をかいて目覚めることもありました。
さらに、工場内も高温になるため、夜でも熱中症になる危険があります。私が勤務していた工場では、真夏になると水分補給の時間が設けられていましたが、それでも倒れる人は年に何人かいました。
5. 夜勤で良かったこと・意外なメリット
とはいえ、夜勤にもメリットはありました。デメリットばかりでは人は続けられません。以下は私が実際に感じた「夜勤の良さ」です。
● とにかく稼げる
やはりこれに尽きます。基本給+残業手当+深夜手当。この3つが合わさることで、手取りで月25万円を超えるのは普通です。多い月では30万円を超えることもあります。
深夜手当だけで月に4〜5万円はあるので、日勤のみの工場より年間で50〜60万円の差が出ます。短期間でまとまった貯金をしたい人にとっては、これ以上ない条件です。
● 昼間の自由時間
役所、病院、銀行など「平日昼しかやってない」系の用事がスムーズに済むのは、夜勤者の特権です。例えば市役所に行って住民票を取る、郵便局で手続きをする、なども夜勤週ならストレスなくできます。
また、混雑を避けて買い物ができるのも利点。スーパーやドラッグストアも人が少ない時間帯に行けるため、ゆっくり選べます。
● 人間関係が気楽
夜勤は、日勤よりも人間関係のストレスが少ないです。理由は単純で、「喋る時間が少ないから」です。みんな黙々と作業しており、余計なコミュニケーションがありません。人付き合いが苦手な人には、むしろ天国に感じるかもしれません。
また、夜勤の現場には「気楽なベテラン」も多く、必要以上に厳しい指導をしてくる人も少ないです。淡々と仕事をこなす姿勢が評価される傾向があり、理不尽な人間関係に悩むことはあまりありませんでした。
● 食堂が空いている
夜勤中の食堂は、日勤に比べてガラガラです。列に並ぶ必要もなく、座る場所に困ることもありません。ゆっくりご飯が食べられるのは地味にありがたかったです。
6. 長期的な影響(半年〜1年やって感じたこと)
■ 「慣れる」は本当か?
結論から言えば、「慣れる」のは本当です。体内時計というのは、意外に柔軟なもので、一定のリズムを繰り返していれば、次第に適応していきます。私の場合も、2〜3ヶ月も経てば夜勤のリズムには完全に慣れてきました。
ただし、「慣れる=楽になる」ではありません。
特に「日勤・夜勤の交代制勤務」は、一週間ごとに生活サイクルを強制リセットされるわけで、これは人間の自然な生理には反しています。たとえば、月曜日の朝6時に夜勤が終わって帰宅し、火曜日から朝8時出社の生活に戻る。このタイムシフトは、まるで海外旅行の時差ボケのような感覚に近いものがあります。
■ 睡眠の質の悪化
私自身はそれまで不眠などの症状とは無縁でしたが、夜勤を経験することで「熟睡できない夜」が少しずつ増えていきました。昼間に寝るというのは、外が明るく、騒音もあり、想像以上に神経を使うのです。
遮光カーテンや耳栓を使っても、やはり自然な夜の眠りには敵いません。徐々に、寝起きに感じる疲労感が取れにくくなり、「寝たのに疲れが残る」状態が日常化していきました。
■ 年2回の健康診断に込められた「警告」
日勤のみの職場では、通常、健康診断は年に1回です。しかし、夜勤がある職場では「年2回」が義務付けられています。これは厚労省が定めている「深夜業従事者に対する健康管理措置」の一環ですが、要するに「夜勤は健康に悪いことがわかっている」という暗黙の警告です。
実際、私の職場でも健康診断で血圧や肝機能、コレステロールの異常値を指摘される人が少なくありませんでした。夜勤を続けるなら、健康管理は自己責任でしっかり行う必要があります。
7. 夜勤をやめた理由とその後の変化
私はスバルで夜勤を1年ほど続けたのち、トヨタ自動織機という日勤のみの工場へ転職しました。
理由は単純。「稼げるのはありがたいが、体と心の快適さには代えられない」と思ったからです。
■ 日勤だけの生活がもたらす「解放感」
日勤だけになると、まず圧倒的に「生活のコントロール感」が戻ってきました。夜勤では常に「他人にリズムを支配されている」ような不自由さがありましたが、日勤のみの生活はそれを解消してくれます。
朝に起きて、夕方に帰宅し、夜にゆっくり眠る。社会と同じリズムで生活するという当たり前のことが、ものすごく贅沢で快適に感じられました。
■ 健康面の改善
日勤に変わってからは、睡眠の質が改善し、日中の集中力や意欲も向上しました。身体も軽く、頭も冴える。夜勤をしていたときの「もやもや感」が嘘のように消えたのです。
私自身、特に健康トラブルが起きていたわけではありませんでしたが、それでも「静かなストレス」が蓄積していたのだと、日勤になって初めて気づきました。
8. 夜勤に向いている人・向いていない人
■ 正直、夜勤に「向いている人」はいない
よく「夜型人間だから夜勤が合っている」と言う人がいますが、日勤と夜勤の交替制では、その理屈は通用しません。毎週のように生活サイクルを変えられるわけですから、向き不向き以前に「生理的にキツい」のが実情です。
それでも強いて挙げるなら、以下のようなタイプは夜勤に耐えやすいかもしれません。
睡眠の質が高い人(短時間でもぐっすり眠れる) 精神的な浮き沈みが少ない人(孤独や不安に強い) 目的意識が明確な人(短期で稼ぐ、目標額まで我慢するなど)
■ 夜勤に向かない人の特徴
逆に、以下のようなタイプは夜勤を避けた方がいいです。
昼間に眠れない(光や音に敏感) 体調が崩れやすい(頭痛・胃痛など) 寝坊しがち(週明けの朝に起きられない)
9. 社会的な目線と偏見
■ 夜勤労働者に対するイメージ
夜勤というと、社会的にはどうしても「不規則な仕事」「不健康そう」「ブラックな職種」といったネガティブなイメージが付きまといます。実際、そういった意見はネット上にも溢れています。
とはいえ、私自身が夜勤をしているということを誰かに話して、直接偏見の目で見られたことは正直ありませんでした。周囲も「大変だね」「稼げるんでしょ?」という理解寄りの反応が多かったです。
しかし、自分自身が夜勤帰りに朝の通勤・通学時間帯に外を歩いているとき、小学生の登校風景やサラリーマンの出勤の波を見ると、「自分だけ逆回転している」ような、なんとも言えない違和感を抱くことがありました。
■ 社会のリズムから外れる「疎外感」
夜勤労働者は、社会の表舞台とは真逆の時間帯に働いています。
そのため、例えば「飲み会に行けない」「ライブに行けない」「昼間しか空いていない病院や役所に行くには睡眠時間を削らなければならない」といった不便さが生じます。
夜勤をやっていると、知らず知らずのうちに「社会的孤立」を感じやすくなるのは否めません。これは肉体的な疲労よりも、精神面でじわじわ効いてきます。
10. 最終的な自己評価と読者へのメッセージ
■ 私にとっての夜勤は「必要な時間」だった
夜勤が好きだったか?と問われれば、答えはNOです。
でも、あの夜勤の期間がなければ、ここまで貯金を貯めることもできなかったし、将来に向けた準備も進まなかった。つまり、私にとって夜勤は「目的を叶えるために必要な期間」であり、単なる苦行ではありませんでした。
夜勤を通じて得たものも多いのです。
深夜手当で毎月5万円プラスという「数字的な確実性」 自分の体と心の限界と、調整の仕方を知ることができた 他人の生活リズムや価値観への理解が深まった
こういった経験は、日勤だけの世界ではなかなか得られません。
■ 夜勤を検討している人へのアドバイス
これから夜勤のある仕事に応募しようとしている方へ、以下の点を伝えたいです。
目的を持って夜勤に臨もう なんとなく夜勤に流されて働くと、精神的にしんどくなります。貯金したい、短期で稼ぎたい、海外旅行に行きたい、起業資金を貯めたい——どんな理由でもいいので、明確なゴールを自分の中に持つことが大事です。 昼間に眠れるかをチェックせよ 夜勤最大の課題は「睡眠管理」です。昼間でもぐっすり眠れる環境づくり(遮光カーテン、耳栓、規則正しい生活)ができない人には、正直きついかもしれません。 切り替えの負担を甘く見るな 夜勤そのものよりも、「日勤⇔夜勤の交替制」のほうが負担が大きいというのは見落としがちです。一週間ごとの切り替えに適応できるか、自分の体と相談してみてください。
11. 総まとめ:夜勤生活のリアルな評価
項目 | 評価 | コメント |
---|---|---|
体調 | ★★★☆☆ | 切り替え時はキツいが慣れる |
精神 | ★★★★☆ | 孤独感・うつ傾向なし |
人間関係 | ★★★☆☆ | 家族とすれ違いやすい |
収入 | ★★★★★ | 深夜手当で稼げる |
自由時間 | ★★★☆☆ | 昼間に動けるが眠気との戦い |
生活リズム | ★★☆☆☆ | 昼夜逆転・切り替えが大変 |
総合評価 | ★★★☆☆ | 稼ぎたい人向けだが健康に注意 |
最後に
夜勤は決して「楽な仕事」ではありません。しかし、だからこそ得られるものもあるのです。
「人生で一度は夜勤をやってみるのも悪くない」
そう思えるくらいの覚悟と目的があれば、夜勤はあなたの人生にとって意味ある一章になるはずです。
私の場合、それは確実にそうでした。