こんにちは、アールです。
今回は、私が実際に工場で働いていた頃に体験した「ヒヤリとした瞬間」について、リアルにお伝えしたいと思います。これから期間工を目指す方、工場勤務に興味のある方、そしてすでに現場で働いている方にとって、少しでも参考になれば幸いです。
期間工が経験したヒヤリ体験
私の工場歴:スバルと豊田自動織機での3年間
まず簡単に、私の職歴をご紹介します。私はこれまでに、以下の2つの企業で工場勤務の経験があります。
スバル自動車(群馬県):期間工として1年半勤務 豊田自動織機(愛知県):派遣社員として1年半勤務
どちらの工場も配属先は組み立て工程で、ライン作業による自動車の組み立てを行っていました。スバルでは夜勤ありの交替制、一方で豊田自動織機は日勤のみの固定勤務でした。現場の雰囲気や働き方、安全意識なども少しずつ異なり、それぞれの特徴がありました。
ヒヤリ体験①:トルクレンチのスリップで負傷
最初にご紹介するのは、まさに自分自身の「事故寸前」体験です。
■何が起きたのか?
ある日、いつも通りトルクレンチでボルトを締めていたときのことです。完全にはまっていなかったにも関わらず、私はそのまま締めにいってしまい、「スカッ」と空振り。その反動で手元がぶれてしまい、右手を車体の鋭利なエッジにぶつけてしまったのです。
■なぜヒヤッとしたのか?
見た瞬間に「やってしまった」と思いました。手の甲が裂けて出血し、今でも跡が残っています。3mmほどの小さな傷でしたが、場所が悪ければ腱を痛めていたかもしれません。
■原因とその後
原因は明らかで、「確認不足」と「慣れ」でした。毎日のルーティン作業に慣れていたからこそ、確認を怠ってしまった。その後は絆創膏を貼って作業を続けましたが、これは軽傷で済んだから良かったものの、本来であれば医務室に行くべきケースです。
ヒヤリ体験②:吊りパイプの緩みを見逃しかけた
次のヒヤリ体験も、かなり印象に残っています。
■何が起きたのか?
部品が載った吊り台車を押しているときに、どこか違和感を感じました。見上げてみると、上から吊っているパイプの接続部が緩んでいたのです。
■なぜヒヤッとしたのか?
普段は上を見ながら作業することは少ないので、もし気づかずにそのまま作業していたら、台車が落下して大事故になっていたかもしれません。頭に当たれば即搬送レベルの重さです。
■原因とその後
おそらく経年劣化と使用頻度による緩みだったと思います。すぐに班長に報告し、メンテナンス部門で修理してもらいました。これは「違和感を感じて止まった自分を褒めたい」案件でした。
ヒヤリ体験③:音の出ない牽引車に轢かれそうに
これは、**「見てなかったら終わってた」**というパターンです。
■何が起きたのか?
工場内を歩いていたとき、背後から電動の牽引車(けんいんしゃ)が走ってきており、私はあと数十センチのところで気づいて避けました。工場の床は滑らかなので、車両が接近しても気づきにくく、エンジン音がないため耳では察知できなかったのです。
■なぜヒヤッとしたのか?
あと一歩、タイミングがズレていれば、足を轢かれていたかもしれません。安全靴を履いていたとはいえ、速度と角度によっては骨折や靭帯損傷のリスクもあります。
■原因とその後
原因は私自身の目視確認の甘さです。牽引車側の責任ではなく、歩行者にも注意義務があります。この件は報告せずに終わりましたが、内心では「あそこで事故ったらどうなってたか…」と、しばらく引きずりました。
目撃した事故未遂①:吊りクレーンで人が気絶
続いては、他人のヒヤリ体験です。私が直接目撃したわけではないのですが、班内で話題になった出来事です。
■何が起きたのか?
ある作業員が、大型部品を取り付けるためにクレーンを操縦していたのですが、バランスを崩してクレーンが人に当たり、その人が気絶したという話を聞きました。
■なぜヒヤッとしたのか?
もしタイミングが悪ければ頭部直撃で命に関わっていた可能性もあるし、操縦ミスや声かけ不足などが重なると、本当に危険です。
■その後どうなったか?
この件をきっかけに、班内で緊急の安全ミーティングが開かれ、クレーン作業時の声かけルールが再確認されました。ヒヤリが災害に変わる前に止めることの大切さを改めて痛感しました。
目撃した事故未遂②:カーブで牽引荷台が横転
これは実際に見たわけではありませんが、工場内で情報共有されたケースです。
■何が起きたのか?
供給車両(けん引車)がカーブを曲がる際、速度を出しすぎたことが原因で牽引していた荷台が遠心力で横倒しになったというものです。
■なぜヒヤッとしたのか?
もしその場に人がいたら巻き込まれて大怪我どころか死亡事故になっていた可能性もあったと聞き、背筋が凍りました。
■その後どうなったか?
当然、操縦者に対する注意があり、班内で速度管理の再教育が実施されました。牽引車は一見安全そうに見えますが、速度と重量を甘く見てはいけません。
目撃した事故未遂③:溶接工程で火災寸前
もうひとつ、かなり印象に残っているヒヤリ事例が、溶接工程で発生した軽度の火災です。
■何が起きたのか?
溶接時の火花が、近くに置いてあった可燃性のウエス(布)に引火し、火が上がったという話を聞きました。
■なぜヒヤッとしたのか?
溶接工程は火花が飛び散るので、日頃から防火意識は徹底されているはずですが、ほんの少しの気の緩みで火災に繋がるという事実が怖かったです。
■その後どうなったか?
この件も班内で即共有され、消火器の位置確認や危険物の管理ルールの再確認が行われました。「大きな火事になる前でよかった」が全員の共通認識でした。
【安全教育のリアル】事故を防ぐための“理想と現実”
どんなに優れた設備が揃っていても、最終的に安全を守るのは「人」です。私がスバル・豊田自動織機の工場で働いていた中で、安全に対する教育やルールはどう機能していたのか。実体験をもとに、リアルな現場の姿を紹介していきます。
◆最初の“安全講習”で教えられること
どちらの工場でも、現場配属の前に必ず安全講習があります。これは大手企業ならどこも同じだと思いますが、内容はかなりしっかりしています。
・災害事例のビデオ視聴(実際の工場内の事故映像)
・保護具(ヘルメット、安全靴、手袋など)の正しい使用方法
・指差呼称やKY活動の重要性
・工場内での歩行ルート、立ち入り禁止区域の説明
・「安全第一・品質第二・生産第三」の原則の周知
とにかく繰り返し言われるのが「安全が全てに優先する」というフレーズです。たとえラインが遅れていても、安全に関わることならすぐに停止してよいと明言されていました。
◆KY活動(危険予知活動)は「やってる感」だけ?
安全講習だけではなく、現場でも定期的にKY(危険予知)活動が行われます。
例えば、朝礼の時間にその日の作業の中で「どこが危ないか?」を皆で共有したり、ホワイトボードに記入して目立つところに貼り出したりします。
ただし、実態はというと……
・実際には毎日同じような「テンプレ回答」
・危険箇所の見直しではなく「やっておくこと」が目的化
・慣れてくると形骸化して、真剣に考える人は少数派
このように、「やってる感」だけになってしまっている場面も少なくありません。
◆現場でルールは守られているか?
ここは工場によって大きな差があります。私が働いた現場では、基本的なルール(ヘルメット着用、安全靴、耳栓など)は当然守られていました。しかし、「指差呼称」のような細かい部分になると、徹底されていない人も多かったです。
例:
・横断歩道の前で「右よし!左よし!」と声に出して確認するルール → 実際に声を出す人は少数。
・視差だけして終わり、呼称までは省略 → 目線すら動かさない人もいる。
これが問題なのは、「見ているフリ、やっているフリ」が当たり前になることです。安全確認は“儀式”ではなく命を守る行為であることが、意識から抜け落ちていくのです。
◆効率と安全のせめぎ合い
建前上は「安全第一」と言われますが、現場のリアルは少し違います。
私がいたラインでは、作業の遅れに非常にシビアでした。特に組み立てラインでは、1分に1台のペースで車が流れてきます。誰かがミスしたり、遅れたりすると後続が全部止まってしまうため、ピリピリした空気が常に流れています。
この状況下で、「安全のためにちょっと時間がかかります」と言えるかといえば……なかなか難しいのが現実です。
もちろん、明らかに危ない場合は停止できます。ただ、「グレーなヒヤリ」の場面では、見て見ぬふりをして続行という選択肢を選ぶ人が出てくるのも無理はないと思いました。
◆安全に対する“慣れ”が一番怖い
個人的に一番危ないと思ったのは、「慣れ」です。
最初の1ヶ月くらいは誰もが慎重で、道具の扱いや周囲への注意も丁寧に行います。でも、3ヶ月、半年と経つにつれて、“無意識のショートカット”を取るようになるのです。
・一回くらい点検しなくても大丈夫
・ボルトの締め具合も勘で分かる
・後ろから車が来ないって分かってる
この“油断”こそが、最大のヒヤリ・ハットの原因です。
そしてその油断が、ある日突然「本当の事故」になる。
【現場で得た教訓】命を守るのは「慣れない心」
私が工場で経験したヒヤリ体験は、すべて“事故にはならなかった”ものばかりです。しかし、だからといって「ただの小さな出来事」と流してしまうのは危険です。むしろ、事故にならなかったからこそ見逃されやすく、同じようなヒヤリが繰り返されていく。
私が感じた、現場で本当に大切だと思ったことを、いくつかに整理して伝えたいと思います。
◆「慣れ」は最大の敵
一番怖いのは、毎日の作業に“慣れて”しまうことです。
・トルクレンチの当て方を雑にする
・ライン作業の確認を飛ばす
・牽引車の接近にも反応が遅れる
このような油断は、「昨日までは何も起きなかったから今日も大丈夫だろう」という慢心から生まれます。作業の手順を変えなくても、意識を緩めるだけで災害の確率は跳ね上がるのです。
◆「命を守る行為」を他人任せにしない
事故は一瞬ですが、その原因は複雑に絡み合っています。
・新人が間違えた
・古い設備が劣化していた
・注意喚起が共有されていなかった
どれも“誰かがなんとかしてくれる”と思っていたら、いつか必ず穴が開きます。
**「自分の命は自分で守る」**という意識がなければ、たとえ周囲がいくらルールを整備しても意味はありません。ヒヤリを未然に防ぐ最初の壁は、結局「自分の意識」なのです。
◆「ミス」を隠さない空気づくりも必要
工場では、ミスをすると怒られることがあります。中には、ネチネチと詰めてくるような先輩もいます。私も経験がありますが、その結果としてミスを隠す空気が生まれてしまうのは最悪の連鎖です。
・スカしてボルトを締め損ねても黙って続ける
・パイプの緩みに気づいても「まあ大丈夫か」と放置する
・安全帯を着け忘れても「誰も見てないからいいや」と流す
これは、すべて「叱られるのが嫌」「指摘されたくない」という心理から来ます。
ミスや不具合を共有できる“心理的安全性”がなければ、安全なんて守れない。工場内の安全文化は、個人だけでなく職場全体の空気によって決まるのだと、私は強く実感しました。
◆これから働くあなたへ:5つの心得
最後に、これから期間工や工場勤務を目指す方に向けて、私の経験を踏まえて伝えたいことを簡潔にまとめます。
①「安全第一」は建前ではなく、本気で守る価値がある
命が一つしかないことを思い出してください。作業スピードよりも命のほうが重いのは当然です。
②「確認作業」は手を抜くと一瞬で事故になる
一秒の確認を怠るだけで、一生の傷を負うこともあります。慣れてきた時ほど慎重に。
③「ヒヤリ」は起こってからでは遅い。感じたら必ず伝える
「ちょっと変だな」「おかしいな」と感じたら、すぐに周囲に共有してください。共有されないヒヤリは、次の犠牲者を生みます。
④「指差呼称」など基本動作の意味を軽視しない
形だけで済ませない。「やってる感」は命を守りません。呼称の声は、あなた自身への注意喚起でもあります。
⑤「自分だけは大丈夫」という油断が最大の危険因子
みんながそう思っています。実際に事故に遭った人も、きっと昨日まではそう信じていたはずです。
【まとめ】“事故ゼロ”は理想じゃない。目指すべき日常
工場勤務は危険と隣り合わせです。機械も、工具も、フォークリフトも、全てが一歩間違えれば命を奪いかねない。
だからこそ、「事故ゼロ」は理想ではなく、日々の努力でようやく手が届く現実なのです。
そのためには一人ひとりが「安全」を“義務”ではなく“目的”として意識することが求められます。
私は、右手に残る傷を見ていつも思います。
「この傷は教訓であり、戒めだ」と。
そして願わくば、この記事が、これから工場で働く誰かの“ヒヤリ”を一つでも減らすきっかけになればと、本気で思っています。